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マツクルライトノベル『蝶の沓』30夜

第3章『跼む』30夜



土曜の夜だからと言って、すぐにお客様が入ってくる訳ではなかった。
女の子たちは私も含め、待機ソファに座って、営業メールを打ちまくっていた。
でも、私がついたお客様でメールを送れそうなのは(他の女の子のお客様、特にまみりんのお客様は絶対NGだ)、『タカさん』こと高木さんと鈴木さんと畠さんくらいしか浮かばない。鈴木さんへはもうメールしちゃったし、高木さんはこの間、凜花さん目当てで来たばかりで、その凜花さんも遅入りだから、メール出来ない。
もう、畠さんしかいなかった。
あの夜、後半の意識は殆どないけれど、畠さんのテーブルはなんだかとても居心地がよかった。大好きな『おぎやはぎの矢作さん』に似ているからだけではなくて、雰囲気がゆったりとしていて、こんなお父さんがいたらなぁと(お父さんと呼べるほどの年でもないだろうから、失礼なんだけど)、少し思ったんだった。
だから、いろんなお話が出来たんだと思う。
畠さんにメールしてみよう!
そう思って、畠さんの名刺を探す。あああああ!電話番号しかない!
メアドを聞いておけばよかったーーー!とは言っても、後半は酔っ払って、それどころじゃなかったんだけど...。
後悔先に立たず!と思っていたら、ボーイの町山くんが「いらっしゃいませ」と静かに、
でも、良く通る声で、お客様のご来店を告げた。
女の子全員立ち上がり、同じように「いらっしゃいませー」と入り口を見る。
そこにいたのは畠さんだった。
忘れもしない!忘れたくても忘れられない!私の『矢作さん』!
思わず、私は飛びついて畠さんを抱きしめたくなった。けれど、私を指名してくれるかは、まだわからない。
でも、あのデビューの夜、初めてきたと言っていたような気がする。
私は渾身の願いを込めて畠さんを見つめた。
畠さんも私の顔を見つけるとパァーっと明るい顔になって、

「るりかちゃん、来たよ」

と言ってくれた。畠さんが神様に見えた。

奥のコーナー席に案内された畠さんの後ろを付いていき、畠さんが座るのを待って隣に座った。
おしぼりを開いて畠さんに渡す。

「先日は酔っ払っちゃってすみませんでした。私、ご迷惑をかけてしまったようで、畠さんがいらして来てくれたら、謝ろうと思ってたんです。本当にごめんなさい」

「謝らなくていいよ。本当に楽しかったんだ。おばあちゃんとカラオケに行って山本リンダを踊る話も面白かった」

ぎゃーーーお!そんな話をしたから『ウララウララ』をやってしまったのか。
なるほど、流れを思い出してきたぞ。と確認して安心してる場合ではない。
穴があったら入りたいとはこのことだ。
私は畠さんの飲み物を作りながら、そのことは忘れてください、と懇願した。
畠さんが「瑠璃果ちゃんはウーロンハイでしょ?」と勧めてくれるので、お言葉に甘えてオーダーした。
ふたりで乾杯!と小さくグラスを鳴らすと、またあの、穏やかな空気感に包まれた。

「この間は私、酔ってしまって自分の話ばかりしてしまって畠さんのお話聞かなかったと思うんですけど、畠さんてどんなお仕事されてるんですか?畠さんのお名刺、すっごくミステリアスで。だって、電話番号しか書いてないんですもの。私、メール出来なくて困りました」

「ショートメッセージで送ってくれればよかったじゃない?」

畠さんは美味しそうに水割りに口を付けて、本当に「うまい!」と口にした。
ああ!その手がありましたねー!と私は左の手の平をグーにした右手でポンと打って人差し指をぴょこんと上げた。

「瑠璃果ちゃんはリアクションがオールディーで安心するなぁ」

「おばあちゃん子ですから、思考も行動も何もかもが昭和なんです、平成生まれなのに」

そこで畠さんが笑う。

「笑わないでください、私にとっては大きな悩みですよ。」

私もウーロンハイを1口飲む。

「私みたいな時代感覚無視の田舎者の小娘がですよ、この大都会東京という名のジャングルの中で生きるのは本当に大変なんですよ」

私は大真面目に言った。そして2口目のウーロンハイは少し多めに飲んでしまった。

「大都会東京という名のジャングルって、そういうフレーズも久しぶりに聞いたよ」

畠さんはゲラゲラ大笑いをしている。
そんなふうに畠さんと楽しく飲んでると、二杯目のウーロンハイが来る前に電話番号を聞かれた。
私は営業用のケータイ番号にするかプライベートのケータイ番号にするか、何故か悩んでしまった。なんでだろ。なんだか、畠さんはちょっと『違う』と思ったからかな。
結局、私はプライベートの電話番号を教えてしまった。

「畠さんはLINEとかやってますか?」

私は聞いてみる。
鈴木さんの時とは違い、随分積極的だなと自分で思う。

「やってるよ、友達登録する?」

「はい、お願いできますか?」

「勿論喜んで!」

何故か、私たちはイケない事でもしているかのように、授業中に机の中でケータイを弄るみたいに、身を少しかがめてテーブルの下で『ふるふる』でLINE友達になった。

気が付くと22時を過ぎていて、凜花さんが女王のように登場した。



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