第2章『跳ぶ』11夜
サラリーマンの団体や学生のコンパや女子会?なるグループががやがやと騒いでいる。
女二人で、ネオン光る駅ビルの屋上ビアガーデンでジョッキを傾けてるのは私たちくらいだった。
「枝豆、食べれたもんじゃないわね…唐揚げもべちょべちょ。これだからビアガーデンって期待できないのよね」
と2杯目の生ビールを取って戻ってきた凜花さんはどうでもいいことばかり話している。
「でも、風が気持ちいいし、私好きです。ビアガーデン。実家の縁側で飲むビールが一番ですけど」
と私もどうでも言い返事をしながら2杯目に口をつけた。
ふふふと少し、凜花さんが笑ったから、私は思い切って言いたかったことを声に出した。
「凜花さん、靴を、ありがとうございます。私、あんなにきれいな靴初めてです」
凜花さんは少しだけとろんとした目で私を見た。
「靴をプレゼントしたのはね、私たちはもうピンヒールやハイヒールを履いてしか歩いていけないと伝えたかったから。あの細いヒールでね、最初はよたよたでも歩いて行かなくちゃいけないのよ。そのうち、慣れて、ピンヒールしかはけなくなる。それでしか、山を登るのも谷を越えるのも出来なくなるの。そのために、それを忘れないためにプレゼントしたの。目的を達成したらスニーカーでもサンダルでも、それこそ裸足だっていいわ。でもそこへ行くまでは私たちはずっとピンヒールよ」
凜花さんはまたビールを飲んだ。
そっか、そういうことなんだ。
私はあの靴を履いて、お店に出るんだ。
きらびやかなドレスにスニーカーは似合わない。
キャバクラの戦闘靴はピンヒールなのだ。
そして私はキャバ嬢になる!
「凜花さん、素敵なプレゼントありがとうございます!私、凜花さんのくれた靴で山にだって登ります。海でだって泳ぎます。そして、借金返して、あいつに復讐したら、私、裸足になりたい」
思わず、復讐なんて言葉まで使ってしまった。
その話は凜花さんにはしてない私の秘密だったのに。
「あんた、あいつって野々村のアホに復讐するつもりなの」
ごまかせない私は仕方なく頷く。
「復讐?復讐と来たかー!そうか!そう、来たか―!」
なぜか、凜花さんはけらけらと笑いだし、
「いいね!復讐しよう♪そうしよう♪」
とリズムに乗せてはしゃいだ。
「そんで、その復讐ってどうやるの?」
「なんにもわかりません。と、とにかく、借金返したらなんとか、やっつけたいと思ってます」
「やっつけたいって、あんた、小学生か!ノープランなわけ?超ウケるんですけど!!」
笑ってる凜花さんを無視して、私は久々に人から聞いた野々村という名前の男の最後の顔を思い出していた。
絶対に忘れない!あんなクズに私の体を捧げたなんて。
「彼女に誘惑されたんです!!」
そう言って指をさした、野々村靖人。
悔しい!!悔しい!!200万よりも悔しい!!
方法はゆっくり考える。でも絶対に許さない。
私は余程恐い顔をしてたんだろう。凜花さんが私の肩をゆすった。
「ねぇ、茶化してごめん!その復讐ってヤツ、あたしも手伝うよ。だから、頼みがあるの。私の復讐も手伝って!!」