マツクルはプロフィールを登録すると店舗からスカウトオファーが来る新感覚のキャバクラ求人サイトです。即日体入情報多数掲載☆

マツクルTOP
»マツクルライトノベル『蝶の沓』71夜
 
   

マツクルライトノベル『蝶の沓』71夜

第8章『踈む』71夜



気が付くと、私は病院にいた。
必死に店の外に出た後、やはり、煙を大量に吸い込んでいて気絶したらしい。
目を覚ました途端、目に入ってきたのは凜花さんだった。

「気が付いた?」

凜花さんは泣いていた。泣きながら怒っていた。
私はまだ半分朦朧としながら、靴とドレス...とかすれた声で言った。

「無事よ。ちゃんとあるよ。あんたが身を挺して守ったものだからね。ちゃんと、あるよ」

凜花さんが指差したベッド脇にピンク色のスーツケースがある。

「あ、あのスーツケースって誰のでしょう。勝手に使っちゃったんですけど」

「あたしのだよ。安心して。にしてもバカだね!靴なんていくらだって買えたし、ドレスだってまたおねだりすればよかったじゃん!」

「宝物だから、全部」

凜花さんは黙り込んだ。しばらく、そうして、窓の外を眺めたり、私の頭を撫でたりしていた。そして、

「幸い、傷は大したことないから、すぐに治るって。もう少し寝てな」

そういうと部屋を出て行ってしまった。
ふと手を挙げみる。指先に絆創膏や腕のところの包帯が巻いてある。
あの時は全然気が付かなかったけど、手足に擦り傷やあざを作ったらしい。
お医者さんはこの程度で済んで奇跡だと笑いながら凜花さんに言ったそうだ。

退院は翌日の午後だった。
畠さんには心配掛けたくなかったから連絡しなかったのに、迎えに来てくれたのは畠さんだった。
帰り仕度をしている(服は凜花さんが私服を持ってきてくれた)時に、コンコンとノックの音が聞こえて、どうぞというと、そこに畠さんが立っていたのだ。

「どうして?」

畠さんは息を切らしていた。エレベーターも使わず、3階のこの病室まで一気に駆け上がってきたという感じだ。
もう一度、「どうして?」と聞く。

「店長と凜花ちゃんから連絡が来た」

畠さん、怒っている。顔も、声も恐い。

「なんで、すぐにお店から逃げ出さなかったの!聞いたけど、入り口近くにいたんでしょ?すぐに逃げなきゃだめじゃないか!」

「でも、誰かが消火器を!とそれに、それに宝物があって、それを置いてけなかったんです」

畠さんはすぐにところどころに傷の付いたスーツケースに目をやる。
近づくとそれを開けようとする。ロックはされてなかったから、簡単に開いた。
畠さんは中から、水色のドレスを出した。

「ねぇ、綺麗なままでしょ?凜花さんのスーツケースが守ってくれたんです」

私は嬉しくて、畠さんからひったくるように掴むと自分に当ててみた。
そしてくるくると回る。

「私なら、このとおりピンピンなんです。怪我もたいしたことないし。本当は病院も大袈裟だったくらいで」

と、そこで抱きしめられた。
強く、でも優しく畠さんは私を抱きよせた。
髪を撫で、「生きてて良かった」と耳元で囁いた。
そして、

「愛してるよ」

と口付けてくれた。

「愛してるから、危なくなったらすぐに逃げること。お願いだから僕の言うこと聞いて」

私は畠さんの目を見つめ、「はい」と頷いた。
畠さんはまた私を抱きしめた。
それは窒息してしまうんじゃないかというほどの力強さだった。



» マツクルライトノベル『蝶の沓』とは?


▲一番上へ戻るよ