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マツクルライトノベル『蝶の沓』51夜

第6章『跪く』51夜



畠さんが部屋のドアを開けた。
軽く腰を押され、中へと招きいれられる。
私の知っているホテルと言えば、野々村と入った(ああ、もう思い出したくもない!)安い壁紙の安いデザインの、ベッドだけで部屋のほとんどを埋めている、そういう質のものしか知らなかったから、まずは広々としたリビングルームがあることに驚いた。
その部屋はTVの旅番組とかで観る、いわゆるスウィートルームだった。
たっぷり過ぎるほどの日差しで、白く浮き彫りになるソファセットは清潔で美しい。
この一室だけで、私の部屋(ユニットバスもミニキッチンも含めた)よりも広いのは明らかだ。
きっと隣の部屋にベッドがあるのだろう。
レストランでルームキーを見せられた時から、私はもう覚悟を決めていたけど、それでも、これから抱かれるんだと思うと、身が縮こまる。
萎縮する私に畠さんはソファを指して、

「座って」

と促した。
私は言われるがまま、ソファに座り、落ち着かないのでモジモジとバッグの取っ手ををいじくっていた。
その間に、畠さんはルームサービスでワインを頼んだ。
ワインが部屋に届くまで私たちは何も話さず、ただ見つめあった。
スタイリッシュな制服を着たルームボーイがワインを運んできた。
静かにコルクを抜き、グラスに注いでくれる。
そして、

「ごゆっくりどうぞ」

と穏やかな声で言うと、静かに会釈して、部屋を出て行った。
また、緊張感のある静寂が私を包んだ。

「乾杯しよう」

畠さんはグラスを掲げる。
私もそれに合わせるけど、震えてしまって、グラスの中が小さく波立つ。
乾杯。
一口飲んで、ああ、もう、味なんかわからない。
その赤い液体が畠さんのキスみたいに感じて、私はじわっと溶けていくような気持ちになった。
対面する形で私たちは座っていたけれど、私は少し震えた声で畠さんに「そっちに座っていいですか」と聞いた。
畠さんは首を振って、

「このままでいい。君の話を聞きたい」

と言った。

「あのね、今日は君を抱くためにこの部屋を取ったわけじゃないから、そんなに緊張しなくていいんだよ。誰もいないところでゆっくり瑠璃果ちゃんの話を聞きたかったんだ」

私の話?
私は眉尻を下げて困った顔をしてしまった。

「瑠璃果ちゃんの一番最初の記憶から、一番新しい出来事まで、話して。僕はそれが聞きたい」

「私、私の話なんてそんなに面白いものではないです。でも、畠さんが聞きたいと言うならなんでも話します。だけど、その前にもう一度、昨夜のようなキスしてください」

私は立ちあがり、テーブルを挟んで畠さんの顔に自分の顔を近づけた。

「キスするには遠いよ。こっちへおいで」

畠さんも立ち上がって私の腕を取って窓際に運んだ。
空はどこまでも高い。空に近いところに立っているのに、それでもまだまだ高くて遠い。
そして、畠さんの唇は世界で一番近いところにあった。



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