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マツクルライトノベル『蝶の沓』101夜

最終章『踴る』101夜



木曜の昼に東京に戻ってきたけど、お店には金曜日から出勤する旨を伝えた。
畠さんに逢うためだ。逢って、話したかった。
LINEすると30分後に返信が来て、19時に京王プラザホテルのロビーで待ち合わせとなったので、軽くシャワーを浴びることにした。
なんだかとても疲れていた。
首をぐりぐりと回転させながら、赤いマークのついたカランを思い切りひねった。
とは言ってもすぐにお湯が出てくる訳じゃないから、少し離れて、しぶきから湯気が上がり始めるのを待った。指先で温度を確かめる。うん、いい感じ。
いきなり熱い湯を体に掛けると一瞬皮膚が粟立った。
それも全身が濡れてしまえば、すぐに馴染んで、元に戻って、小さなバスルームはあっという間に蒸気で白く煙った。
なんだか湯船に浸かりたくなってきて、バスタブの排水溝に蓋をする。
いつもはお湯がもったいなくてこんなことしないけど、私はバスタブに座り込んで、そのままシャワーを浴びながら、お湯を溜めた。
丁度いい湯量まで溜めるとシャワーを止め、鼻をつまんで頭をその湯の中に潜らせた。
息が苦しくなるまで、温かな液体の中、無音を楽しんで頭の中が空っぽになるのを待った。
限界まで来ると勢いよくお湯から飛び出す。子供のようにそれを何度か繰り返してたら、いつしか私は笑っていた。
今夜は泣かないで話せそうだと思った。

白いニットのワンピースの上に、冬が始まる少し前に畠さんが買ってくれたグレーのカシミヤのコートを着て行くことにした。襟にはふわふわした狐のファーが付いている。ウェストの部分からふわっとフレアになってて、可愛らしいシルエットだ。私はベルトでぎゅっと蝶蝶結びを作って、黒いブーツを履いた。
畠さんは慣れてるから、京プラ(京王プラザホテル)とかさらっと指定してくるんだけど、私は、そういうしゃちほこ張った場所はいまだに苦手で、着ていく服とかメチャクチャ悩む。
京プラのロビーは3階にあった。
ゆったりと座ってケータイをいじくってる畠さんを見つけたので、驚かそうと思ったのに、畠さんはすぐに私に気が付いてしまった。

「『ワッ!』ってしようと思ったのにぃぃ」

立ち上がった畠さんのそばに駆け寄ると、畠さんは私の腰に手を当てがって、

「何が食べたい?久々にイタリアンにする?それとも鉄板焼きにしようか?」

私がさっぱりしたものが食べたいとリクエストしたので、んーんと畠さんはちょっと考えてホテル内にあるお蕎麦屋さんを選んだ。
入り口で「二人」と告げると、庭が見える窓際のカウンター席に通された。
ライトアップされた竹が青く並んでいて情緒たっぷりだ。
席に座るなり、

「おばあちゃん、大したことなくてよかったね」

おばあちゃんの容態については大まかだけどメールで説明していたから、特に付け足すこともなかった。

「ご心配ありがとうございました。具合は大丈夫なんですけど…おばあちゃんに知られてました。キャバクラで働いてること」

ここで一度話を区切って、私たちは飲み物と料理を注文した。といっても畠さんがほとんどチョイスしてくれたんだけど。
おぼろ豆腐やマグロとアボカドの山かけ、お浸しや鴨ロースのあぶり焼きがカウンターテーブルを彩る。

「まずは食事を楽しもう」

畠さんにそう言われて、考えてみれば火曜水曜、そして今日東京に戻ってくるまではまともに食事をしていなかったことを思い出した。
畠さんはマグロとアボカドの山かけを摘まみながら、

「僕さ、ずっとアボガドだと思ってたんだよね、アボカドじゃなくて、全部濁るんだと思ってた」

「ああ、わかります!私、高2くらいで初めて食べたんですけど、その時スーパーのポップにはアボガドって書いてあって、だからずっとアボガドだと思ってたんです。でも、短大の時に友達に『アボカドだよ』って指摘されて、どっちでもええじゃあ!美味けりゃええじゃあ!とか思いました」

私は思い出して笑ってしまった。本当はその時、自分の無知さがすっごく恥ずかしかったんだけど、その指摘して来た友達に「細かい!」と逆ギレしたんだった。
畠さんにその話をすると畠さんも笑った。
結局、〆に二色せいろを一枚を頼み、二人で仲良く分けて食事が終わるまでは、そんなくだらない話ばかりで肝心な話は何一つしなかった。
会計を済ませると、ホテルを出て、タクシーに乗った。
畠さんは運転手さんに行き先を「代々木上原」と告げるとあとは黙って、私の手を握り続けた。
15分も経たないうちにレンガのタイルが張られたマンションの前に着いた。
8階建てくらいかな?私は直立するその建物を見上げる。
畠さんが先にエントランスを抜けてエレベーターのボタンを押す。
私が「あのぉここは?」と聞こうとした先に畠さんが言った。

「僕んち。ゆっくり話したいでしょ?」



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